とある3月と4月
 
 
 

 
三  120521 up



 
 

ロウに漬け込んだブーメラン
火の前に あぐらをかいて
余分のロウをけずっていると
小さな子がきて寝そべって
私のひざに 小さなあごをのせ
手を動かしているのをながめている
 
それ お仕事なの?
 
そう
 
ふーん 
わたしも 大きくなったら
そういうお仕事する
 
そう?
 
うん!
 
小さな子の 両親の顔が
つと 頭をよぎる

 
 

六  



ビンン〜〜
 
カメムシが
ギターに飛び込んで
音をたてた





 
 
あたらしいくつのかわりに
ふるいくつを ひっぱりだしてきて
今日ひとつ 咲いたばかりの
クロッカスのよこで ごしごし洗う
カネヨの泡が 日をあびて
火花のように飛び散る
 
 




 

はりの響き
 
ええ凪や
と 彼が言っていた
あの日の海のような この数日
 
 




 
 
大風が吹いて
ヒヤシンスがみんな 泥につっぷしたから
この前の風でたおれた水仙と水にさす
この部屋の中の春
 
 




 
 
肉やへ行くと 
ちょうど夫婦して奥を向き
決勝戦をみているところ
八回表 3-1
 
ふっ とふり向いた ちっちゃな奥さんの
はじめてみる笑顔に はっ とする
 
こちらはいつなんどきも
満面笑顔のおっちゃん
お肉やさんは こんな顔をしててほしい
ほっぺたぴかぴかの ライオンズファン
 
どうなってる??
 
韓国が攻めてるね〜
 
わ〜っ ハラハラするね
 
そぉ〜よっ 監督が原だからっ ねっ
 
 




 
 
ガス代を払いにいくと
このうえなく ごきげんで
ももの枝を 小さくおとし
もたせてくれた大家さん
 
 
夕暮れの公園
満開の桜があふれ まぶしく日をあびる
 
風のなか フルートをふいていると
いつのまにか そばへかけよってきた
ちいさな子 ふたりから
とある進路決定の 大役を
おおせつかった
 
私の指さすほうへ
ふたりは風のように草のうえを
すいすいと かけていく
 
つぎは ほうれ
あの とおくに みえる
おおきな きりかぶの まんなかを
めざすのじゃ

  



 
 
さくら くも
おつきさま
ながれぼし
 
 


 
  
ドシラソラシド
ドラシソラシド
 
桜吹雪のうた
 




 
 
なんだか 時差ぼけしているみたい
どこにでかけたはずもないのだけれど
きのうはまるで 一週間まえ
ふた月まえは 一年まえ
 
なんだか 激流くだりをしているみたい
景色は見るまもなく飛んでゆく
 
やっとみえた 橋のうえのあのひとに
助けて……! と あげた叫びが
声になったとき 橋はすでに遠く
視界を落ちる
  




 
 
暗がりで 電話がりんりんなっている
どこからともなくおじさんが
きてそこへたつと ちん と止み
目をみあわせて笑った
 
今日は初ものの 高菜の塩漬け それから
ラナンキュラスとフリージアとストックの
小さな花束と あわせて 300円を
代箱へ じゃりん

 
 




 
なにかなつかしいな
 
手をとめ 顔をあげる
 
そうか さっきから
しきりにとおく ひびいてくる
こじゅけいの鳴きごえだ
 
 




 
 
挿し木をしようと
固い土を掘ってたら
ざくざく出てくる小石にまざって
泥にまみれた透明の
小さな星がみえたような気がした
 
あれ と 思ったままいちど忘れたのを
目覚めに思い出して もういちど掘りに行く
やっぱりあった ほらあった
水できれいに洗って 日にかざす
あわいきいろの
きみはどこの星?
 
 




 
 
「 乳母車にひかれんじゃねーよ 」
って さすが
彼女にして この師
 
 





 
 
またひとつ
本日をもって 無事卒業
一年と三ヶ月
よくがんばりました
記念にいちまい 写真をパチリ
先生 ヨボヨボになっても
元気でここに いてください
 
 





 
 
はからずも
本日をもって またひとつ
卒業のお達し
 
そうなんだ…… ?
 
はてさていったい
私はなにを卒業したのやら
ふしぎなふしぎな 心の学校
答える必要のない
不思議先生の宿題
 
 





 
 
花が咲いた 花が咲いた 真っ赤な花が
淋しかった ぼくの庭に 花が咲いた
たったひとつ 咲いた花 小さな花で
淋しかったぼくの庭が 明るくなった
 
花よ花よ 小さな花
そのままで そこに咲いてておくれ
 
花が咲いた 花が咲いた 真っ赤な花で
淋しかったぼくの庭が明るくなった
 
花が散った 花が散った いつの間にか
ぼくの庭は 前のように 淋しくなった
ぼくの庭の 花は散ってしまったけれど
淋しかった ぼくの心に花が咲いた
 
花よ花よ 心の花
いつまでも ここで咲いてておくれ
 
花が咲いた 花が咲いた ぼくの心に
いつまでも散らない
真っ赤な花が
 
私のもらった 真っ赤な花

 
 

 




 
 
         
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